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番外編 二つの疑問
「ごめんなさい」
蚊の鳴くような声でそう口にすると、海翔くんは下を向いたままぼろぼろと泣き出した。
「ちゃんとごめんなさいが言えて偉いですよ。でもその言葉は私ではなく、一太くんと奏音くん。めぐみちゃんと優輝くんに言いましょうね」
「……はい」
「本当は仲良くしたいんでしょう?」
海翔くんが小さく頷いた。
「友だちに………なりたい」
「じゃあ、まず、お風呂に入って体と髪を洗ってさっぱりしましょう。怪我の手当てもしなければなりませんね」
海翔くんがおそるおそる顔を上げると、耳と、後ろ髪の生え際のあたりを撫でた。
「そこに水がかかるのが嫌なんですね?分かりました。ちょっと待ってくださいね」
橘さんが「柚原さん」と呼ぶと、すぐにすっ飛んできた。
「海翔、ぽちゃぽちゃに行くぞ」
柚原さんと橘さんを交互にじっと見る海翔くん。二人はにっこりと優しい笑顔で見つめ返した。すると、海翔くんが自分のほうから手を差し出して、二人の手をぎゅっと握った。
橘さんはポケットからハンカチを出すと、海翔くんの涙をそっと拭いてあげた。
「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。苦手な食べ物はありますか?」
「やさいと魚。食べれなくはないんだけど………骨があるし、にがいし……」
「そうですか。じゃあ、好きな食べ物はありますか?」
「好きなたべものより、たべたいものいっぱいある」
「そうですか」
さっきまで泣いていたのが嘘のように海翔くんはニコニコと笑ってスキップをしながらお風呂に向かった。
「さすがままたんとぱぱたんだな」
これには彼も舌を巻いていた。
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