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番外編 見えない圧力
「子どもたちに聞いたらみな声を揃えて海翔の字じゃないって証言した」
「これは奏音から借りてきたんだが、これが海翔の字だそうだ。プリントが間違って戻ってきたんだろう。間違いに気付かずランドセルに入れて持って帰ってきたそうだ」
鞠家さんが提示したプリントと紙切れの字を険しい表情で見比べる彼。
「オヤジ、伊澤さんが見えられました」
「おぅ、そうか」
若い衆が彼に声を掛け、一歩下がると伊澤さんが姿を見せた。もちろん根岸さんも一緒だ。お揃いのスーツに身を包み、ピタリと肩を寄せ合い仲睦まじい様子だった。
「こんな夜中に呼び出して悪いな」
「まだ宵の口だ。それに火急の用なんだろう」
「筆跡鑑定と指紋を採取し鑑定してもらいたい。海翔とそこにいる川本以外素手では触ってはいない」
「分かった」
伊澤さんが川本と名前を呼ばれた男性をチラッと見た。
「す、す、すみましぇん。そ、そんな大事なモンだと分からなくて素手で触ってしまいました」
ぎくっとし縮み上がると、慌てて頭を下げた。
「怒ってねぇよ。こんな小さな紙切れ、よく見付けてくれたな。川本、ありがとう。お手柄だ」
「へ?」
てっきり根岸さんに怒られると思っていた川本さん。目をぱちぱちさせながらも、根岸さんに褒められたのがよほど嬉しかったみたいで感極まり涙ぐんだ。
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