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番外編 蟻は大丈夫なのに虫が苦手な譲治さん
「ぎゃぁぁー-!」
押入れを開けた譲治さんが悲鳴を上げて覃さんの体に抱きついた。
「今夜はやけに積極的じゃないか?どうしたんだ?」
「カサカサ音がする」
がたがた震えながら押入れを指差した。
「音?聞こえないだろう?」
「するよ」
わなわなと震える譲治さん。
見るに見かねた龍成さんがどさっと布団を引っ張り出すと、黒い虫が何匹か勢いよく飛び出してきたものだから、譲治さんは恐怖のあまり半泣きの状態になってしまった。
「ゴキブリくらいで驚くヤツが……いたな」
くくく、と龍成さんが思い出し笑いを浮かべた。
「さすがは兄弟だな。達治もゴキブリとか虫がだっ嫌いで、あちこちでぎゃーぎゃー騒いでいる。覃、譲治がパニックを起こして、地竜を踏んだらそれはそれで大変なことになる。落ち着くまで下すなよ」
「了解した。こんなラッキーなことは滅多にないな。ゴキブリに感謝だ。謝謝《シェ シェ》」
鼻歌を歌いながら覃さんが譲治さんを連れ出してくれた。
「来客用の部屋の掃除と、布団敷きも若い衆の仕事だ。基本のきを教えようと思ったんだが、虫も嫌いなのか。蟻は大丈夫なのに。参ったな」
彼が頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
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