2656 / 3260

番外編 生まれてはじめての長靴に大興奮の太惺と心望

「お前ら、何をボサッとしてるんだ。喋っている暇があるならさっさと手伝え!」 森崎さんの怒鳴り声に若い衆がギクッとし、震え上がった。 「たいくんとここちゃんに風邪でもひかせてみろ。卯月の兄貴に顔向けが出来ないぞ」 森崎さんは物置にしまっていたテントを見付けてきて、庭に設置しはじめた。 「森崎さん、何もそこまでしなくても……過保護過ぎませんか?」 七海さんが声を掛けると、 「俺はオヤジから姐さんと二人を守るよう、じきじきに頼まれているんだ。何かあったんでは遅い」 「七海、森崎の言い分にも一理ある。ここは森崎を立ててやったらどうだ」 蜂谷さんが若い衆に指示を飛ばし、ものの五分もかからず、あっという間にテントを設置した。 長靴を履かせてもらい下に下ろしてもらう二人。怖いもの知らずの心望は手でバランスを上手い具合に取りながらはじめの一歩を踏み出した。目指すは両手を広げて待っている森崎さんの腕の中だ。 一方の太惺は七海さんの服をぎゅっと握り締めたままなかなか前へ進もうとはしなかった。あんなに外に行きたくて大騒ぎしていたのに。

ともだちにシェアしよう!