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番外編 不協和音
「会長、俺も一緒に行きたいです」
鍋山さんがすっと右手を挙げた。 降矢さんは迷惑そうだった。
あくまでも噂だかな。降矢は鍋山を快く思っていない。余所者、裏切り者。影で鍋山や譲治の悪口を言っているみたいだ。降矢は古株で度会の片腕だ。確たる証拠がないから度会も頭を悩ませている。彼の言葉が脳裏をふと過った。
「あの、度会さん」
「鍋山もいずれは組を背負って立つ幹部の一人になる。年寄りがいつまでもでしゃばっている場合じゃないのはよく分かっている。未知、心配してくれてありがとうな」
不安を一掃するように度会さんが優しく笑んだ。
「降矢、いい機会だ。鍋山にいろいろ教えてやれ」
「は?なんで儂が?」
「嫌なら別な者に………」
ちらっと庭を見る度会さん。視線の先にいたのは森崎さんと佐治さんだった。
「会長、儂に行かせてください」
手柄を横取りされてなるもんか。降矢さんは必死に懇願した。
「時間がない。鍋山を連れて早く行け」
「はい、分かりました。鍋山、何をボサッとしているんだ。縣さんをこれ以上待たせたら失礼になる。早くしろ」
降矢さんは上着を肩に担ぐと、鍋山さんに声を掛け龍成さんのところに向かった。
「はい!」大きな声で返事をすると、森崎さんと佐治さんに譲治を頼むと頭を下げて、降矢さんのあとを慌てて追い掛けていった。
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