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番外編 海翔くんはずっとSOSを出していたのに

「濡れているから乾かそう。海翔にとったら大事なものだ。今は無理でもいつか返せるときが来る。千里に持って帰ってもらおう」 地竜さんがそう言い出して。 蜂谷さんと青空さんが倉庫からブルーシートを持ってきて居間に広げた。ランドセルの中には教科書とノートと生活ファイルと連絡帳と、どれだけ溜め込んだのか。くしゃくしゃになったプリントや学校からのお便りがランドセルの底にぎゅうぎゅうに押し込んであった。 何気に連絡帳を手に取る蜂谷さん。パラパラと捲った。 「姐さんのことが書いてあります」 「え?」 きょとんとして蜂谷さんを見ると、 「一太くん、いいなぁ。パパとママがなかがよくて。いつもにこにこ笑ってる。かなたくんも、いいなぁ。一太くんのママがやさしいから。おこらないから。よそのこなのに、かなたくんはあいされて。いいなぁーー筆圧が強いから穴ぼこだらけの連絡帳になっている。下敷きをすればいいのに」 連絡帳を見せてもらった。 生活ノートには宿題と持ち物を書く欄があった。保護者からの一言も印鑑もまったく押されていなかった。 「みんな忙しいから大変なのは分かる。分かるけど、音読を聞いてあげたり、宿題を見てあげたり。瀧田さんと、瀧田さんの奥さん、海翔くんを預かったのはいいけど、ほったらかしにしていたんだ。海翔くん、SOSを出していたのに、ぜんぜん気付いてあげられなかった」 悔しくて上唇を噛み締めた。

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