2693 / 3262

番外編 波乱の予感

「地竜、猿芝居をするためにわざわざ帰国した訳じゃないんでしょう?」 「人妻の声は色っぽくてぞくぞくするが、会長の声も痺れるくらいかっこいいな」 「地竜、故意に話をはぐらかそうとしていない?」 「そんな訳ないだろう」 「急に饒舌になったのがその証拠よ。アタシに用があるから、あとを追い掛けてきたんでしょう?違う?」 「未知に会いに来たんだ」 「シラをきる気?」 手を緩めないお姉ちゃんの追求に地竜さんがついに観念した。 「遺体と対面したい。千里のほうから甲崎か国井に頼んでもらおうと思ったんだ」 「遺体?」 「四日前だ。男性の遺体が東京湾に浮かんだ。身元が分からないように顔が焼かれて、集団で暴行を受けたんだろう。損傷が激しく、被害者の身元特定には至っていない」 「地竜の知り合い?」 「緑竜が殺され東京湾に遺棄された。関係筋から聞いた。信憑性はある。なにより身体的特徴と、背中のドラゴンの刺青が一致している。もし遺体が緑竜《リュノン》なら俺が引き取るのが筋、そう思ったんだ。見れば遺体が緑竜《リュノン》なのか白竜《バイノン》なのかすぐ分かる」

ともだちにシェアしよう!