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番外編 根岸さん、焼きもちを妬く

「あ、そうだ!伊澤で思い出した。希実が入院していたS大学附属病院のドアの前に、木多さんのご冥福をお祈りますと書かれたメッセージカードと花束。その他に缶ビールや煙草、チョコレートが並べられてあったんだって。一回や二回じゃないみたいよ。対処に苦慮した病院スタッフの吉田というダンディーな男が伊澤を訪ねてきたって甲ちゃんが話していたんだっけ。すっかり忘れていたわ」 「吉田って誰だ。知り合いか?」 根岸さんの声が強ばっているように聞こえた。 「昔、俺が何度か逮捕したヤクザだ」 「は?そんな話しはじめて聞いたぞ」 嫌悪感を露にする根岸さん。自分が知らない男の名前が出てきたから、焼きもちを妬いているみたいだった。 「吉田とはなんでもない。そんなに疑うんだったら鞠家に聞け。五十近いが今度こそ更正してまっとうな人間になりたいと相談を受けて、病院の警備スタッフの仕事を紹介したんだよ。根岸に一言も言わなかった俺が悪い。謝るから機嫌を直してくれ」 「やだ」 「頼むからやだって言わないでくれ」 普段は冷静沈着で寡黙な伊澤さんも根岸さんが相手だとどうも調子が狂うみたい。かなり困惑していた。

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