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番外編 根岸さん、焼きもちを妬く

「吉田は九鬼総業の元構成員だ。四十過ぎても出世とは縁遠く部屋住みのまま。九鬼だけでなく、いつみにも顎でこき使われるのが嫌で九鬼総業から逃げ出したんだ」 根岸さんはブスくれたまま伊澤さんの説明に耳を傾けていた。 「顔は怖いがバカがつくくらい真面目な男だ。家族が出来たから俺も変わりたいと懇願されて、知り合いのつてを辿り仕事を紹介したんだ。無断欠勤、遅刻もなく真面目に仕事をしていると聞いている」 お姉ちゃんが吉田さんが持参した写真を伊澤さんに見せた。 「望実はまだ二十歳になっていないから酒も煙草も駄目だ。それを知らない人物が供えたということか。ん?」 伊澤さんが何かに気付いた。 「根岸、この革靴どっかで見なかったか?」 「革靴なんてどれも同じだろう」 渋々写真を覗き込む根岸さん。 「ストレートチップ、つまり、爪先にもう一枚皮を被せることだ。この革靴は一足十五万もする日本製革靴の最高峰といわれる品物だ。九鬼が生前好んでよく履いていた。宋が海翔の祖父を隠し撮りした写真になぜか革靴を撮影したものがあっただろう?祖父が履いていた革靴もこれと同じものだ」 「よく覚えていたな」 「これでも元刑事だからな」 伊澤さんがくすっと笑った。

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