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番外編 柚さんの帰宅と新たな波乱の予感
柚さんが信孝さんと龍成さんに付き添われて帰宅したのは夕方の六時過ぎだった。
「ママ、おかえり!」
幸ちゃんは一時間前からずっと玄関の上がり口に座り、足をぶらぶらさせながら柚さんが帰ってくるのを首を長くして待っていた。
「幸ただいま。お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
「あっち」
台所のほうを指差す幸ちゃん。
「橘と紫さんに手伝って夕御飯の準備をしているんだろう」
「オヤジは駅裏にある斎場だ。壱東の娘の通夜が執り行われている。七時には帰宅する」
柚さんが顔をしかめた。視線の先にいたのはひろお兄ちゃんだった。
「なんで貴方がここに?」
「一央と同じことを聞くんだな。葬儀に参列するためだ」
「壱東って確か、楮山の……」
「元タクシー運転手で、今はオヤジの専属運転手だ。東京から来たばかりで地理に詳しくないから、ヤスが一生懸命面倒をみている。不都合なことがあるのか?」
「用済みになり楮山に捨てられた頭の悪い躾のなっていない野犬を一匹引き取ったって」
「信孝、菱沼組にそんなヤロウいたか?」
「さぁな。どうだったかな?」
ひろお兄ちゃんも信孝さんも譲治さんのことを庇ってくれた。
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