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番外編意気地無しの兄ちゃんでごめんな
仏間の前を通ったとき誰もいないはずなのに人がいる気配を感じて思わず立ち止まった。耳を澄ませるとカタカタと微かに物音が聞こえてきた。
怖いなんて言ったらそれこそ希実さんたちに失礼だ。僕よりもっと怖い思いをして、生きたいと願いながらも、大人たちの身勝手な理由で若い命を無残にも奪われたんだもの。
すっと一息ついてから戸をゆっくり開けた。
黒い影が仏壇の前にちょこんと座っていた。
青いジャージ姿とまるっこい背中に見覚えがあった。
「譲治さん……だよね?」
驚かないようにそっと静かに声を掛けた。
「お葬式行かなかったの?」
「希実が無事に天国に行けるように神さまに頼んでいた。生まれ変わって今度こそ幸せになってほしい。希実寂しがり屋だから、ひとりぼっちで泣いているかも知れない。兄ちゃんは何もしてやることが出来ない。希実を生き返させることも、時間を巻き戻すことも。なんで俺は生きて、希実は……」
譲治さんは言葉を詰まらせると顔を両手で覆った。
「意気地無しの兄ちゃんでごめんな」
ボロボロと涙を溢した。
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