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番外編覃さんは神出鬼没

「覃さん、譲治をこの手で抱き締めてやりたんだ。少しでいいから貸してくれないか?」 「やだ」 「そう言わずに頼みます」 「もうしょうがないな。三分だけな。あ、そうだ。くれぐれも変なところを触るなよ。いいか、お触り禁止だぞ」 常日頃彼に口酸っぱく言われていることをそのまんま壱東さんに言う覃さん。 「触るも何も俺ら親子なんだが」 困惑しながら譲治さんの隣に腰をおろす壱東さん。覃さんに睨まれながらも、 「譲治、ごめんな。苦労をかけて」 ゆったりとした口調で話し掛けた。 「イチ、お帰り」 「ただいま譲治」 「イチ、見てみ。希実が笑っているんだ。さっきまで眉をこんくらい吊り上げていたのに」 眉を指先で吊り上げて見せる譲治さん。 「それでねイチ、聞いて、聞いて」 ニコニコと楽しそうに笑いながら希実さんの話しを一方的にする譲治さん。壱東さんには心配を掛けまいと、母親から受けた酷い仕打ちのことは一切話さなかった。 「ごめんな、譲治に何から何まで背負わせてしまって。父さん譲治に会わせる顔がないとずっと思っていた。でも、譲治に会えて本当に良かった。ありがとう」 壱東さんが目に涙を浮かべながら譲治さんをぎゅっと抱き締めた。

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