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番外編息子を頼む
「狸寝入りしていることはバレバレだぞ。龍は騙せても、俺を騙すなど100年早い」
目をぱちっと開ける奏音くん。つぶらな瞳でじっと彼の顔を見つめた。
「どうだ?まだ龍のことが信じられないか?」
保護者に虐待されて育った子は、明るく振る舞っていても、常に不安を感じている。他人に頼るのが怖い。人を信用することが出来ない。いらないと拒絶されて捨てられるかもしれない。また虐待されたらどうしよう。斉木先生の言葉が脳裏を過った。
「龍がさっき言った言葉、嘘だと思うか?」
しばらく考えたのち首を横に振る奏音くん。
「いらないって父さんに言われたんだよ。お前なんか生まれてこなければよかったって。役立たず。くず。のろまだって。一太くんパパ、こんなぼくが幸せになってもいいの?バチが当たらない?」
「バチは当たらねぇよ。いいか、奏音。耳をかっぽじってよく聞け」
「オヤジのありがたい格言講座を聞いていたら日付が変わります。明日奏音くんは学校ですよ。朝起きれません」
橘さんが奏音くんを迎えに来た。
「あと五分だけ。頼む」
「駄目です。いっぺんに四人起こすほうの身にもなってください。大変なんですから。奏音くん、今度こそ寝ますよ」
橘さんが笑顔で両手を差し出した。
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