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番外編柚原さんの過去と、弓削さんへの深い愛情

「私も興味があります。混ぜてもらってもいいですか?」 すっと静かに襖戸が開いて、橘さんが足音を忍ばせて寝室に入ってきた。 「柚原さん、昔のことは全然何も話してくれないんですよ」 子供たちが寝ている布団の端に座ると、にっこりと微笑みながら足元まで蹴飛ばした毛布をそれぞれ掛け直してくれた。 「ヤスね、凍死寸前のところを弓削に助けられたんだって。二年くらいは一人でお風呂に入ることもトイレに行くことも寝ることも出来なくて、読み書きが出来ないと馬鹿にされるのが嫌、人が怖いと言って学校にも行かず、真っ暗な部屋に籠っていた。だから、弓削が24時間片時も離れずそれこそ不眠不休でヤスの面倒をみていた。ヤスも弓削にベッタリで、弓削の姿が少し見えないだけで大泣きしていたらしいよ」 「あとから来た新入りに弓削さんを取られ、当然ながら柚原さんは面白くなかった。だからしょっちゅう喧嘩をしていたのでしょう。柚原さんも焼きもち妬きですからね」 「冬の朝弓削とヤスが抱き合って寝ているのが面白くなくてわざと冷たい水を二人に掛けたり、弓削とヤスが一緒に風呂に入っているときにブレーカーを落とし灰だか何かを撒いたり、ヤスの服を切り刻んで捨てたり、凄かったみたいだよ」 「悪戯の域をはるかに超えてますね。下手したら犯罪ですよ」 橘さんは怖いくらい冷静で。落ち着いていた。

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