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番外編白雪夫妻
駅前通りに面したお洒落な外見の美容室の前を素通りしようとしたら、
「ここじゃないのか?」
ひろお兄ちゃんが鞠家さんに声を掛けた。
「若くてイケメンな美容師がわんさかいるところにオヤジが姐さんを行かせると思うか?オヤジは自分と舎弟以外のヤロウに姐さんを見られるのを毛嫌いしている。俺もそうだが裕貴もそうだろう?」
「そうかな?」
不思議そうに首を傾げたひろお兄ちゃんに、
「そうだよ」
心さんがここぞとばかりに反論した。
「遅いから何かあったんじゃないか心配したぞ」
細い路地から蜂谷さんと青空さんが出てきた。
「悪い。道が混雑していた」
「この先にある雑居ビルの一階に弓削の知り合いが経営する床屋がある」
「今にも幽霊が出そうじゃないか」
「ここが一番の近道なんだ。行くぞ」
蜂谷さんと青空さんが先導し案内してくれた。
しろゆき美容院本日定休日と書かれた紙がドアに貼ってあったけど、蜂谷さんはさほど気にとめる様子もなくドアを開けた。
「しろゆきさん、姐さんを連れてきた」
声を掛けると、
「あら、いらっしゃい未知さん」
紫さんと同い年の白雪《しろゆき》ハツさんが奥から姿を見せた。ご主人の義夫《よしお》さんはソファーに座りお茶を啜りながら競馬新聞に目を通していた。
二人は俺の命の恩人。高齢だし自分がいない間二人が心配です。ですからたまに様子を見に行ってほしい。話し相手になってほしい。弓削さんに頼まれた彼。それから週一回は必ず二人のもとを訪ねるようになった。
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