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番外編命だけは粗末にするなよ

「ずいぶんとまぁ仕事熱心な男だ」 「ここから歩いて五分とかからない駅前交番のデカより、車で二十分もかかるマル暴のデカのほうが早く着くとはな。滑稽だな」 「どいつだ?」 ひろお兄ちゃんが身を乗り出した。 「そうか若井に会うのは初めてだったか。グレーのスーツ。五分刈り。目つきが血なまぐさくて気味が悪い。小さい子供がいるのにそんなのお構いなしに煙草を吸っている男だ」 「あまりじろじろ見ると気付かれるぞ」 「分かってるよ。へぇ~~、俺らより悪党のツラをしていやがる」 若井さんは他の刑事さんとの話に夢中になっていて、ひろお兄ちゃんたちに見られていることにまったく気付いていないみたいだった。 「同僚だった蜂谷がいるのに誰も気づかないとはな」 「そういうものだよ。みんな目の前の事件と自分のことで精一杯だよ」 蜂谷さんは交通整理をする若い刑事たちをちらっと一瞥すると、上司が上司だからな。命だけは粗末するなよ。前向いて頑張れ。小さな声でエールをおくった。

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