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番外編疑念

「何度も悪いな。裕貴に白雪夫婦のことを話してくれないか?」 「悪いだなんて。卯月さんの役に立てる、これほど嬉しいことはありません」 「そうか」 「あの卯月さん……」 久弥さんがちらっと下を見た。 「裕貴と信孝のことは気にするな。俺もひとのことは言えないが、甘えん坊の構ってちゃんばっかりで参ったな」 「そうですね」 ぷぷっと久弥さんが笑った。足を投げ出して座る彼の右の膝の上で信孝さんが、左の膝の上でひろお兄ちゃんがごろんと横になっていた。 宋さんは着替えてくると言ってまたふらりといなくなった。 「白雪義夫からは犯罪の匂いがした。何かを隠しているとしか思えない。二人からこころやすらぎの名前を聞いたことがあるか?」 ひろお兄ちゃんが久弥さんをじっと見つめた。 「なぜか俺だけを引き取りたいと何度も兄ちゃんに言ったみたいだけど、兄ちゃんは何か匂う、裏があるじゃないかって疑って、夫婦の申し出を断った」 「そうか」 「どんなに貧しくても俺は兄ちゃんの側から離れたくなかったし、ずっと一緒にいたかった。実は俺も兄ちゃんも白雪さんの子どものことはあまり知らないんです。部屋にずっと引きこもっている、大阪の親戚の家にいる、都内で一人暮らしをして大学生をしている、いろんな噂は耳にしました。兄ちゃんも上京するたびに探していたみたいですけど結局は見付からなかったと話していました」

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