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番外編阿部さん

阿部さんが目頭を押さえた。 「年のせいか涙脆くて参ったな。四季さんは信じていた人に次から次に裏切られて、人間不信になり殻に閉じこもってしまった。一番大事な、多感な時期にあんな目に遭ったんだ。大人も警察も誰も信じられなくなるのは当然。私たちは遠くからしかただ見守ることしか出来なくて、それがどんなに歯痒かったか。卯月さんありがとうございます。先入観にばかりとらわれ私はあなた方を誤解していた。面目ない」 「四季は出会ったころの妻によく似てる。妻と同じ目をしていた。だから誰かが手を差しのべてやらなきゃならない。お節介は百も承知。どうしてもほっとくことが出来なかった。ただ、それだけだ」 譲治さんがそろりそろりとお茶を運んできた。手が震えていて、丸盆と熱い湯呑みをいっぺんにひっくり返しそうなそんな覚束ない足取りだった。鍋山さんがハラハラドキドキしながら見守っていた。 「あっ!」畳のへりの部分につまずき転びそうになった譲治さんを寸でのところで抱き止めたのは青空さんだった。

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