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番外編 阿部さん

「焦るは禁物だと言ったろ?お湯が掛からなかったか?」 青空さんがハンカチを阿部さんに差し出した。 「あぁ、大丈夫だ。ありが……」 青空さんの顔をじっと見つめる阿部さん。はっと息を飲んだのが分かった。 「俺の顔に何か付いているか?」 「もしかして十五年前に誘拐されて大陸に連れ去られた子どもというのはきみのことか?」 「そうだ」 「たまたま偶然警察署で情報を求めるポスターを見掛けて、警察官に聞いたら手がかりが全くないと聞いて、ずっと気にはなっていたんだ。縁起でもないが親がもし亡くなっていたとしても兄弟か親戚はいる訳だろ?誰も名乗りを上げないなんて、どう考えてもおかしいだろ?」 「俺は秦青空。それでいい。そのほうが誰も傷付かないし、誰も不幸にならずに済むだろ?右手に姐さん、左手にハチ。両手に花で、俺は幸せ者だ」 「ん?」意味をすぐに理解することが出来ず阿部さんが不思議そうに首を傾げた。 「祖国の土を十五年振りに踏んだとき、青空は片言の日本語しか話せなかった。息子たちが青空に日本語を教えている。大目に見てやってくれ」 彼がくすりと笑った。

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