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番外編阿部さん
「雲泥の差だな」
ぼそりと阿部さんが呟いた。
「年寄りの戯言として聞き流してくれ。九鬼千夏さんと小夏さんは警備対象者として警察が24時間つきっきりで警備をしているというじゃないか。要保護者として住むところも無償で提供され、社会復帰に向けて職業訓練を受けたりと、それこそ国をあげて手厚いケアをしているというじゃないか。3人とも同じ誘拐された被害者なのに、青空さんに対してはなんのケアもない。だから雲泥の差だと言ったんだ」
「最初から期待はしていない。青空の仮の戸籍を作ったときも都とすったもんだあって大変だったんだ。15年前に誘拐されたという事実はない。そもそも青空が日本人だと証明するものがない。門前払いだ。だから青空の遺伝子を調べて検査結果とゲノム検査料の請求書を、なおも認めようとはしない都の担当者に突き付けた。日本人男性の6割の遺伝子は固有の遺伝子を持っているそうだ。それは他国には見られない特殊な遺伝子だそうだ。青空は誰が何と言おうが正真正銘日本人だ。見てくれが悪いだけで判断してもらっては困る」
きっぱりと断言した彼を阿部さんが羨望の眼差しで見つめていた。
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