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番外編彼のお祖父さん

「度会さんと紫さんに挨拶をしてから帰ります」 立ち上がろうとした阿部さんに、 「用件はそれだけか?」 彼が静かな口調で問い掛けた。 「はい、そうですが」 「もう一度聞く。用件はそれだけか?」 阿部さんの目をじっと見つめる彼。 「他にもあったんじゃないか?鼻摘み者のヤクザにわざわざ会いに来る物好きな弁護士はいない。違うか?借りなんて作ったらのちのち揚げ足を取られて面倒なことになるからな。誰だって俺たちとは関わりたくない」 「卯月さんは隠し事も出来ませんね。私の敗けです」 阿部さんが座り直した。 「バス事故が起きた西会津町で菱沼コンサルティング株式会社の社員たちが、四季さんの写真を持ち歩き、当時の状況を住民に聞き回っていると耳にしたんです。男たちは四季さんの両親が眠る寺を訪ねて、墓前で花と線香をあげて三十分以上も手を合わせていたそうです。悔しいよな、息子の成長した姿を見ることも、息子の花嫁姿を見ることも出来ないんだもんな。四季は朝宮和真と10月10日に結婚式を挙げることになった。長澤さん仇は俺たちが必ず取るからもう少し待っててくれ。そう言っていたそうです。それを寺の住職から聞いてやっぱりあのバス事故はただの事故じゃなかった。黒幕がいる。それを私は確信した」

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