3060 / 3562

番外編 安川さん

なめこ自体初めて食べると話していた青空さん。ヌルヌルなのがちょっと苦手かなと思ったけど、一口食べて一言。俺、これ食べたことがある。つるっと口に入るこの食間が好きで、なめことわかめと豆腐のみそ汁を母親がよく作ってくれた。冷凍庫になめこがいつも入っていた。母親の顔……だめだ。思い出そうとするとなぜか顔に靄がかかって見えなくなる。俺には姐さんと紫さんと和江さん。三人も母親がいるから、いいんだ。寂しくない。なめこは福島の特産品みたいで安川さん以外にもなめことえのきを作っている農家さんがいる。青空さんはもしかしたら福島出身だったんじゃないか、そんなことを彼が話していたことをふと思い出した。 青空さんの両親は同じ青空の下で生きてる。息子の帰りをずっと待っているはず。警察からは青空さんの両親に関しての手がかりが見付かったという連絡はまだない。 「水神さまを奉っている小さな祠が安川さんの家の敷地内にあるみたいですよ。 ほとんど埋め立てられてしまい猫の額ほどの溜め池しか残っていないそうですが、昔はとても大きな池があったそうです。青空さんは水神さまの祠の写真を見たときハッと息を飲んで、俺知ってると呟いたそうです。ですから、蜂谷さんに頼み、安川さんのところに連れていってもらったんです」 「だから二人ともいないんですね」 「えぇ。朝の散歩がてら仲良く出掛けていきました」 安田さんは髪をつるつるに剃っている。坊主頭、スキンヘッドというのかな?一見するとちょっと怖そうだけど、幼稚園のバスの運転手をしているみたいで、とにかく子供が大好きで、にこにこといつも明るく笑っている。面白い人だ。

ともだちにシェアしよう!