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番外編 安川さん
「何か手がかりが掴めればいいですね」
「そうですね」
安川さんには子どもはいない。自分が病気になったらそのときはなめこ農家を辞めると話していた。初めて青空さんに会う人はみんな全身髑髏の刺青に驚くのに安川さんはまったく驚かなかった。それどころか青空さんの顔をじっと眺めたのち、どっかでいっきゃったような気がすると、そんなことを漏らしていた。
「なかなか帰ってこないかも知れませんよ」
橘さんがスマホの画面を見せてくれた。
安川さんの隣に住む吉田さん夫婦が自宅を改装し週末限定で農家レストランを開いているみたいだった。目玉は近所の鶏卵農家から届く新鮮な卵をふんだんに使ったシュークリームだ。
青空さんなら五個はぺろりと食べてしまう。
噂をすれば影だ。蜂谷さんから遅くなりますとメールが届いた。安川さんと吉田さんの奥さんと腕を組み笑顔で写真に写る青空さん。初対面なのにも関わらずすっかり意気投合したみたいで笑顔が溢れていた。
「さすがはおばちゃんたちのアイドルですね。蜂谷さんも青空さんも聞き上手ですからね。この地区は昔から農業を生業にして住んでいる方がほとんどですから、何かしか手がかりが掴めるかもしれませんよ」
世間話やご主人の愚痴やご近所さんの愚痴を聞いたのち、ある日突然いなくなった家族はいないか、行方知れずになった子どもはいないか、警戒されないように細心の注意を払いながら、安川さんと吉田さんに話を聞いた蜂谷さんと青空さん。最初はいないと言っていた二人だけど、そういえば……と何かを思い出したみたいで、二人を近くの集会所に連れていってくれた。
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