3070 / 3595

番外編 度会さんが唯一苦手なもの

「いるならいると一言くらい言ってくれ。心臓が止まるんじゃないかとおもったぞ」 「あらあらすみませんね。やましいことがないなら一言くらいそう仰ってくれればいいのに」 「やましいことなんてある訳ないだろ」 「本当に?」 疑いの目を向けられギクッとする度会さん。 「俺は紫一途だ。遼禅や義夫みたいに若い女に鼻の下を伸ばすとでも思ったか?」 「いいえ、思っていませんよ。さてと青空さんにご褒美にミートパイでも作ってあげようかしらね」 紫さんがるんるん気分で鼻唄を口ずさみながら台所へと向かった。 「あの笑顔がおっかねぇんだ紫は。不倫なんぞしたら間違いなくまた血の雨が降っぺした。俺はまだ死にたくない。せめてめぐみたちが成人するまでは生きたい」 度会さんがブルブルと震えていた。 「また?度会さん、もしかして……」 「一回きりだ。酒の勢いでつい。あれは若気の至りだ。ただし女じゃないぞ。彼は………」 「そこまでは聞いてませんよ」 彼がクスリと笑った。 「仲がいいんですね」 「そう言う卯月だって未知と仲がいい癖に」 顔を見合わせるなり、やっぱりカミさんが一番だな。ププッと笑い出す二人。本当の親子みたいに仲がいい。 「どうした?お前が電話を掛けてくるなんて珍しいな」 ―玲士の奴、そっちにいると一言も言わないんだ。昨夜千ちゃんから聞いてはじめて知った。弟が迷惑を掛けてないか心配で、仕事も手につかなくてな― 「亜優に対する愛が重いからな、玲士は。今のところ泣かせたりはしていない。少しは進歩したんじゃないのか?嫌われたら一貫の終わりだしな」 ー迷惑を掛けていないなら良かった。卯月、悪いが弟を頼むー 「任せておけ」 ーじゃあ切るなー 「待て、甲崎。他にも用があるから電話を掛けてきたんだろ?違うか?」 ー卯月には隠し事は出来ないなー 観念したように自嘲する甲崎さん。

ともだちにシェアしよう!