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番外編 遥琉さんおかえりなさい

「卯月ありがとう。あいつらは手加減というものを知らない。参った」 「それだけ子分たちから愛されているということだろ?羨ましいよ」 「俺は嬉しくない」 唇をとがらせ子どもみたく駄々をこねる地竜さん。 大山さんが普段のクールで寡黙な姿とはまるで違う地竜さんに驚いていた。 「そっちが素の姿か?」 「さぁな、どっちが本当の姿なのか、たまに自分でも分からなくなる」 大山さんは地竜さんを捕まえる気はなかった。 「国際手配されているおたずね者とはいえ、実際は悪いことはなにもしていないんだ。逮捕する理由がない」 そう言って。 縣一家を出て東京駅に着くまで与志之さんは玲士さんたちの側から離れなかった。ただ駅に着くなり急にそわそわしはじめて、トイレに行くと言ってそのまま迷子になり、新幹線の出発時間になっても来なくて探したと玲士さんが話していた。 地竜さんが畳に這はいつくばりうめき声をあげていた。 玲士さんとコウジさんは与志之さんが偽者だと遼お兄ちゃんから聞かされ腰を抜かすくらい驚いていた。 ー特に不審な点はなかったです。いつもと同じ。チャラチャラしていて、しゃべり方もいつも通り。可愛い女の子を見付けるとすぐに声を掛けていました。でも、待てよー 玲士さんは与志之さんが飲み物を買いたいとコンビニエンスストアに寄ったとき、普段は炭酸のジュースしか買わないのにブラックの缶コーヒーを買っていたこと、たまたま居合わせた男性客と何やら親しげに立ち話しをしていたことを思い出したみたいだった。 ー知り合いか?と聞いたら、違うと否定はしていたから、あまり気にも留めていなかったんですが……これから東京駅に行ってきますー 玲士さんが、コウジさんに行くぞと声を掛けている声が漏れ聞こえてきた。

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