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番外編 もし赤い糸があるなら

「ボス、食いたそうな顔をしてるな。ほら、あるぞ。毒味だ」 「覃、それを言うなら味見な」 小皿によそったお粥を嬉しそうに配り始めた覃さんに、 「愛しのジョーにも食べさせてやったらどうだ?」 「これからモグモグあ~~んタイムだ。邪魔するなよ」 「邪魔する訳ないだろ」 「そうか?ボスはすぐに焼きもちを妬くからな」 「その台詞そっくり返す」 まるで夫婦漫才みたいなやりとりにお祖父ちゃんがスプーンを握り笑うのを必死で我慢していた。 「伊澤と根岸はそのころから赤い糸で結ばれていたんだろ?」 「急に真面目な顔をして何を言い出すかと思ったら」 地竜さんがずっこけそうになった。 「俺はいつだって真面目だ。もし赤い糸があるなら俺はジョーを結ぶ。世界のどこにいてもジョーがいる場所が分かる。生きていることが分かる。俺を待ってくれることが分かる。一挙両得だ」 「心配しなくても覃と譲治は赤い糸で結ばれている。出会うべくして二人は出会った。合縁奇縁という言葉の意味をあとで調べてみたらいい」 お祖父ちゃんが声を掛けた。 「日本語が難しいからな」 「覃の日本語はすごく上手だ。堂々と胸を張っていい」 「そうか?照れるじゃないか」 お祖父ちゃんに褒められ覃さんが照れ笑いを浮かべながら頭を搔いた。 「茨木さんは誉がその時に連れ去られた赤ん坊だと考えているんですか?」 「あぁ、そうだ」 「俺も根岸も大山もだ。当時匿名のタレコミがあったんだ。赤ん坊を調べろってな。いたずら電話だとみんな思い込みまともに取り合わなかった。あのときちゃんと調べていればこころやすらぎを解散に追い込めたのに」 悔しさを滲ませる伊澤さんの声が廊下から聞こえてきたから驚いた。

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