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番外編 タンシャン

「俺のではない」 「俺のでもない」 「偽者が隠し持っていたナイフで自分で喉をかっ切ったんだ。止血しようとしたがウィルスに感染している可能性がある。血に触れるな、離れろと大山に止められた。急いでシャワーを浴びてくる」 「たいくんとここちゃんには内緒にしておいてくれ」 二人が急いで浴室へと向かった。 「橘、悪いな。せっかくこのシャツもらったのに処分するしかなくなった」 地竜さんが軽く頭を下げた。 「いいですよ。またプレゼントすればいいだけのことです。浴衣を準備しておきますね」 「血に触れな、離れろって物騒な話しだな。根岸さんと伊澤さんは?」 「二人は大丈夫です。男の子二人を念のため上澤先生のところに連れていきました。若い衆と近所の方々は公安のかたが近付かないようにしてくれましたので皆さん無事です」 橘さんの言葉を聞きほっとし胸を撫で下ろした。 「平凡な人生がどれほどハードルが高いか、身を持って知っているつもりだ。親のエゴかもしれないが、せめて子どもたちには平々凡々な生活を送らせてあげたいんだ。親がヤクザだからと後ろ指を指され、肩身の狭い思いをさせたくないんだ。この状況で餅つきを楽しみなど非常識は百も承知だ」 彼の言葉に異議を唱える者は誰もいなかった。

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