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番外編タンシャン

「伊澤がいれば一網打尽にだって出来たのに。相手が悪すぎると二の足を踏んでいる。命が惜しいのは分かるが、何か裏があるとしか思えない」 「隠れるのが得意な紫竜がわざわざお出ましになったんだ。逮捕する絶好のチャンスなのに。サツは何をしているんだか。やることなすことすべて後手後手に回っている。これ幸いと逃げられるぞ」 「こっちの情報がなぜか紫竜側に筒抜けになっているんだ。アジとに三度踏み込んだがもぬけの殻だった」 「身内に内通者がいるということか。なるほどな」 心当たりでもあるのか度会さんが厳しい表情を浮かべていた。 「県警内部の膿を出さなければ冤罪という悲劇をまた繰り返すことになりかねない。すっかり長居してしまった。そろそろ帰る」 大山さんがゆっくりと立ち上がった。 「あら、もうお帰りになるんですか?終電にはまだまだ間に合います。もう少しゆっくりなさったらいいのに」 紫さんが淹れたてのお茶を運んできてくれた。 「そうしたいのは山々なんですが仕事が立て込んでいまして」 「そうですか、それは残念です」 与志之さんが龍成さんら若い衆に付き添われ警察に出頭したという連絡が入ったのはつい五分前のことだ。 与志之さん自ら出頭したというよりも、自分が悪いをしたという自覚が全くない与志之さんを縣一家が見放して警察に突き出したみたいだった。

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