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番外編タンシャン

「ママ、ままたん、かなたくん!」 「たいへん!」 橘さんと一緒に台所で茶碗を洗っていたら遥香と幸ちゃんが慌てて駆け込んできた。 「奏音くんがどうしたの?」 「テレビみてたのね。そしたらいきがくるしいって」 「おかお、あおい」 柱の時計を見るとちょうど夕方の六時半だった。 「県内のニュースでさっきのことが報道されたのかもしれませんね」 「橘さん、もしかしてさっきの人たちの中に奏音くんが見たことがある人がいたということですか?」 ー奏音くんは根岸さんに引き取られるまで、死ぬかもしれない恐怖を何度も経験していたんです。間違いないでしょうね」 「急いで行かないと」 行こうとしたら、 「パパがね、さいきせんせいよんでって」 「あと、ねぎさんも」 「分かった。すぐに連絡するね。二人ともありがとう」 二人の頭をぽんぽんと撫でて、尻ポケットからスマホを取り出した。僕は根岸さんに、橘さんは斉木さんに電話をかけた。 ーオヤジと地竜にはそれとなく伝えておいたんだが、たいくんもここちゃんもリモコンが大好きだからな。姐さん、すぐに戻りますー 磐梯熱海温泉にいたとき、よほど怖い目に遭ったのだろう。お願いだから殺さないで。僕はなにも知らないの。呼吸を整えようと息をのみ目をぎゅっと閉じた。ガタッという物音に驚いたのか、長座布団を頭から被ると体を折り曲げ自分を小さくした。手足がガタガタと震えていた。 「奏音!」 根岸さんが息を切らし駆け込んできた。 「みつきママ、こわいよ」 根岸さんにしがみつくと声を震わせて泣き出した。

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