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番外編 願掛け

「俺も兄貴にぎゅっと、バグしてもらおうかな」 廊下の方から信孝さんの声がしてきたからドキリとした。 「信孝さん、もしかして喧嘩を売ってますか?」 「売るわけないだろ。幹部全員広間に集まったとオヤジに伝えてくれ」 橘さんとそんなやりとりをしていた。 「幹部に緊急に召集をかけた。千里から、紫竜らしき男がこっちに向かっていると連絡があった。地方のほうが巻き込む人数が少ない。被害が少なくて済むとでも思ったんだろう」 時刻は夜の十時半過ぎ。明日も学校と幼稚園がある子どもたちを起こさないように酒盛り禁止で幹部による会合がはじまった。 「度会さんの知人に事件屋として業界では知られた男がいる。とある組の企業舎弟で、金融機関から土地売買、金になることは何でも手掛けている。グロース市場に上場した某IT企業が危ないらしいというガザネタを掴まされ大損した。彼に嘘の情報を吹き込んだ男が紫竜の腹心の男だ。覃に顔を確認してもらったから間違いない」 「紫竜の腹のなかはどす黒い。真っ黒だ。負け戦になると分かっていてもドンパチをするのか?」 末席に座っていた宋さんが不意にそんなことを彼に聞いた。 「話せば分かる相手ならいいが、それは無理だ。相手ので出方をまずは見極めないと」 「なるほどな」 「宋は湯山を知っているのか?」 信孝さんが声を掛けた。 「湯山は冷酷無比な男だ。子どもの首を片手で締め上げ、何でもするから助けてと泣き叫ぶ姿を見て喜ぶ男だ。奏音はよく見付からなかったな。誰か、庇った男がいるのか?」 「あぁ。さすがは楮山の倅だ。奏音にそう言ったらしい」 そんな会話をしていたら、地竜さんと根岸さんたちが帰ってきた。

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