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番外編彼も地竜さんも子煩悩
「そろそろ出掛けるんですね」
橘さんに聞かれていないと思っていたけど、しっかり聞かれていた。
「死出の旅にならないように祈ってますね」
「紫竜の懐刀の男をまずは始末せねば。柚原の弾を避けたんだ。よほどの手練れと見た。ヤツは拳銃を所持し事務所の回りをうろついている」
「狙いは鞠家さんですか?」
「相手は元デカだ。返り討ちにされるだけだ」
「となりますと……」
橘さんがはっと息を飲んだのが分かった。
「危険を察知した宋がナオ親子をいち早く連れ出した。じきにここに来る。信孝もいっぱしのやくざの端くれだ。彼は宋とともに組事務所に残り構成員を守る決意をした」
「地竜、俺も連れていけ」
柚原さんが静かに口を開いた。
「駄目だ。ここにいてくれ。さっき言ったこと嘘だったのか?」
「嘘じゃない。でもたった一人で立ち向かうより二人の方がいいだろ?」
「その気持ちだけありがたく受け取っておく。俺一人じゃない。卯月もいるし宋もいるし伊澤さんもいる。根岸さんもいる」
防弾チョッキを着てグレーの上着を颯爽と羽織る地竜さん。黒の手袋を嵌めるとポケットから普段は掛けないノンフレームの眼鏡を取り出した。
「愛しの妻と子どもたちから元気とやる気と勇気と癒しをわけてもらったから頑張れるのかもな」
眼鏡を掛けると顔つきも、目付きもガラリと変わった。子煩悩な優しいディノンさんから、冷徹で沈着冷静な死神のボス地竜さんに。まさにスイッチが入った瞬間だった。
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