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番外編紫竜さん
地竜さんが、紫竜はいずれ必ず義夫の前に現れると予言していた。まさにその通りになった。
「いち早く危険を察知した海堂さんと瀧田さんは雲隠れしてしまいましたからね。残るは義夫さんのみです。紫竜さんは五歳かそこらの年で布教活動のために他の信者たちと大陸に渡りかなり苦労したみたいですよ。いつか日本に帰り親を見殺しにし、自分を売り飛ばした連中をぶっ殺す。地竜さんに一回だけ話したことがあるそうです」
「橘さん、ヤスさんも命を狙われますよね?」
「ヤスさんは戸籍上は度会保徳になっています。海堂さんの息子は行方不明のまま。亡くなったことになっています。念のため誰か向かわせます」
「そうしてください」
「それともうひとつ……」
橘さんが心配そうに眉をひそめた。
「でも彼の側には根岸さんたちがいますし、きっと大丈夫でしょう。このことは一部の者しか知りません。ですから紫竜もまだ嗅ぎ付けていないはずです」
誰のことを言ってるのかこの時はまだ知らなかった。
「シェドに監視させていた海堂を仕留め損ね、標的を瀧田と白雪に変えた。神様の悪戯か、たまたまだったのか、瀧田も白雪も菱沼組と関り合いを持っていた。しかもその菱沼組には地竜が心底惚れている妻がいて、海堂の息子もいる。紫竜は一石二鳥とほくそ笑んだはずだ」
「誤算だったのは、本部で足止めをくらい、福島にいないと思っていた遥琉と地竜さんが戻って来ていたことでしょうね。死神の主要メンバーもいつの間にか来日していて一般市民に紛れ込んで市内に潜伏し紫竜さんを迎え撃つ準備を秘密裏していたのですから。完璧だったはずの計画に狂いが生じた。思いどおりにならなくて紫竜さんはかなり焦っているはずです」
そこへ若い衆が、すみません柚原さん。至急通訳を頼みますと駆け込んできた。
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