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番外編 守りたい命

「玄関先で言うのもアレだが、子どもたちには聞かせたくない話しだから。ちょっといいか?耳を貸せ。大きな声は禁止だ」 「もしかしてオヤジに何があったのか?」 「ボスも卯月もたいした怪我はしていない。治療が終わればそのうち戻ってくる」 二人が無事と聞いてホッとし胸を撫で下ろした。 「紫竜のやろう、錯乱して病院内で銃を乱射しスプリンクラーを壊し水浸しにし三階から飛び降りて逃げた。ボスも卯月も命がけで紫竜から一般市民を守ろうとした。何かあったのは斉木だ」 「覃さん、斉木先生にも何かあったんですか?」 思わず駆け寄った。 「紫竜に銃を向けられても一切怯まなかった。堂々と渡り合った。さすがは卯月の息子婿だ。正体はバレてはいない。訛っているただのヤバい医者だと思っているはずだ」 地竜さんに銃を向けられても紫竜さんは余裕綽々でにやにやと嗤っていた。彼は一番弱い立場の人間。つまり女性の腕に抱っこされている生後1ヶ月の赤ちゃんを人質にして逃げようとした。斉木先生はそれを止めるために紫竜さんの体に飛び掛かった。捨て身の行動に売ってでた。 斉木先生はドヤ街にある診療所に勤務していたころ、酔っ払いやドラッグ中毒の患者たちを診てきた。九鬼総業の構成員たちがいちゃもんをつけて、みかじめ料を要求し診療所に乗り込んできたときもたったひとりで立ち向かい撃退したという武勇伝があるくらいだ。 紫竜さんは斉木先生をただの医者だと思い、油断していたのかも知れない。

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