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番外編男の約束

玲士さんがいたから僕も遥香と同じように口をあんぐりと開けてしまった。東京にいるはずの玲士さんが福島にいることが信じられなくて思わず顔を二度見してしまった。 「菱沼組の一大事は亜優にとっても一大事。オヤジに行かせて欲しいと直訴した。コウジは、どうしても確かめたいことがあるとオヤジに頼み込んだ」 「親の仇か?」 「オヤジが聞いても詳しいことは何も話してはくれなかった」 「そうか」 彼がちらっと地竜さんを横目で見た。 「しらばっくれるな。紫竜の名前が出たとたん、いつもそうやってお前は黙り込んで、お口チャックだもんな」 「誰だって話したくないことの一つか二つはあるだろ。別に話してもいいが長くなるぞ。昔々あるところにからはじまって、めでたしめでたしまで三日はかかる。いや、めでたしめでたしにはならないか」 「とんちんかんなことをまた言い出すし、たくお前ってヤツは……」 ちぐはぐな答えに彼が額に手をあてて、やれやれとため息をついた。 「ちょっといいかしら」 チカちゃんが割り込んできた。 「若井さんがね、一連の事件の件で斉木優に任意で事情を聞きたいと駐車場で待ち構えていたのよ。あきらかに刑事ではない、人相の悪い二人組を連れてね。そこに軽トラで颯爽と現れたのが玲士だったものだったから、アタシもハルくんも呆気に取られて状況を把握するまで時間が掛ったのよ。いや、本当にもう心臓が止まるんじゃないか、そのくらい驚いたのよ」 「チカさんどうぞ」 チカちゃんに温かいカフェオレが入ったマグカップを渡す橘さん。

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