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番外編福光家の呪い

「台所の手前にある客間にいるわよ。ノックするのを忘れないで」 「ありがとう。あれチカさんがいる。久し振りだな。いつ帰ってきたんだ?」 「昨日よ。めぐみちゃんに親子の部で一緒に走りたいって頼まれてマラソン大会に参加したの」 「そうだったんだ。邪魔したな」 「吉崎さん待ってください」 戸を閉めようとした彼を思わず呼び止めてしまった。 「どうした?」 「礼さんが撃たれたって聞いて……」 「あぁ、そのことか。礼には姉が四人いることは知ってるよな?」 「はい。いちばん上が佐原さんの奥さんだった人で、いちばん下がみずほさんですよね?」 「あぁ、そうだ。二番目の姉は資産家に嫁ぎ都内で暮らしている。三番目の姉は海外で暮らしていてつい先日帰国したんだ。礼のほうから遺産はすべてナオと未知さんに生前贈与すると説明したはずなのに何も聞いていないの一点張りでそれでトラブルになっていたらしい。詳しいことは俺もよく知らない」 「ねぇ吉崎さん、三番目のお姉さんは何をしている人なの?」 「なにもしていない。四十五歳。未婚。無職。親のすねかじりでろくに働きもせず自由気ままに暮らしている。その親も高齢になり生活が苦しいとの理由で資金援助を断られた。だから礼に金の無心をするようになった」 「なるほどね。礼さんは末っ子だし断りたくても断れないわよね」 「蝶よ花よとチヤホヤされて育ったから世間の荒波にもまれることもなく、苦労というものも知らずわがまま放題に育った。未知さんやチカさんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい」 吉崎さんが気配を感じ後ろを振り返った。

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