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番外編開けてはならないパンドラの箱
遥琉さんの分のお握りを急いで作り広間で待っている彼に届けて見送ってから、台所にとんぼ返りし、覃さんの分のお握りを作ってあげた。
「旨い。未知ありがとう」
嬉しそうにお握りを頬張る覃さんを見ているうち僕まで幸せな気持ちになれた。
「覃さんさっきの話ですけど……」
「俺もひとつ大事なことを言い忘れていた。福光はナオだけでなくなんとか基金を一緒に創設した未知にも生前贈与したいと、昨日かその前に弁護士を通じて縣に言ってきたらしいぞ」
「へ?」予想もしていないことを言われ思わず変な声が出てしまった。
「何だ聞いてなかったのか?てっきり聞いているものだと思ったぞ」
「遥琉さんは何も言ってなかったです」
「余計な心配をさせたくないというのと、お家騒動に愛する妻を巻き込みたくなかったんですよ」
橘さんが台所に入ってきたから驚いた。
「米びつが空でしたからね。石井さんに頼んで米を持ってきてもらいました。覃さん、いくらでも食べていってくださいね」
「かたじけない」
「あ、そうだ。譲治さんが探していましたよ」
「嘘だ、絶対に。ジョーが俺を探すわけないだろ?」
「そんなだとすぐに嫌われますよ。いいんですか?運命の相手なんでしょ?」
「それだけはいやだ」
覃さんはお握りを口の中に押し込むと、何度も躓いて転びそうになりながら、慌て駆け出した。
「嘘も方便です」
橘さんがププッっと笑いながら米びつに米を移していた。
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