3404 / 3632

番外編七夕

「海堂の倅というだけで公安から監視され散々嫌な思いをしてきたのに。なんで……」 ヤスさんがいなくなったあと大山さんがポツリと本音を漏らした。 「ヤスは監視されていることに気付いていたが、さほど気にしていなかった。というか忙しくて気にする暇なんかなかったのかも知れない。ヤスのの場合三足のわらじをはいて毎日走り回っている」 「三足のわらじですか」 大山さんがくすりと笑った。 「短冊も七夕飾りもいっぱいだね」 心望を抱っこして散歩がてら笹を眺めていた。 太惺はきっとなんかしていないから、がぼがぼの長靴を履いてあちこち探索したのち庭に出来た大きな水溜まりに興味を示したみたいでしゃがみこんでじっと見ていた。 「お前らしーだぞ」 「驚かせるんじゃねぇぞ」 いつになく真剣な眼差しに若い衆が太惺の邪魔をしないようになるべく足音を立てないようにそっと後ろを通っていた。 なにもそこまで気を遣わなくてもいいのに。 「ママ!」 太惺が大きな声を出した。 「たいくんどうした?何かいたか?」 僕が行く前にたまたま近くにいた佐治さんが飛んできてくれた。 あれ見てと水面を指で指し示す太惺。 「大きなにょろにょろだな。あれはミミズっていうんだよ」 佐治さんは太惺と同じ目線になるように腰を低く屈んで笑顔で話し掛けてくれた。 太惺があっちと言いながらまた違うところを指差した。

ともだちにシェアしよう!