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番外編七夕

庭のすみにある猫の額ほどの小さな池から脱走したのかザリガニが悠然と砂利の上を歩いていた。 「たいくん見てこようか」 「佐治さんすみません。お仕事中なのに」 「ヤス兄貴を待っているだけですから気にしないでください」 佐治さんは太惺と手を繋ぐと早速ザリガニを見に向かった。 いたってマイペースな太惺は、一歩進めば葉っぱを見つけて立ち止まり、もう一歩進めばちょうちょを見つけてまた立ち止まり、なかなか先に進まない。 佐治さんは根気よく太惺に付き合ってくれた。 「たいくん、今度はなにを見付けたんだ?ダンゴムシか。面白いよな、くるっと丸くなるの。不思議だよな」 太惺がしゃがみこみ目をまんまるくしてダンゴムシをじっと見ていた。 ヤスさんが佐治さんを呼びに来たけど、ダンゴムシを見るのに夢中になっていて聞こえていないみたいだった。 「あっ!」 今度は蟻の行列を見付けて歓声をあげる太惺。 自分の靴のサイズに合わせた長靴があるのになぜかお姉ちゃんの長靴がお気に入りで。がぼがぼだからいつ転んでもおかしくない。見ているこっちがヒヤヒヤする。 「たいくん走ると危ないよ」 怪我をさせたら一大事と佐治さんが慌てて追いかけた。 「心望も見てくる?」 顔を覗き込むとすやすやと寝息を立てて眠っていた。さっき欠伸をして眠たそうに瞼を擦っていたことをふと思い出した。

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