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番外編光希さんの妹さん

職人が焼いたパイの香ばしい香りがするスイーツ店のとなりにコーヒーショップがあった。 「なかなか来ないから心配したわよ」 「ごめんなさい」 「福島に帰ってきていたなら一言くらいあってもいいでしょう」 「それは父さんと母さんを……」 「危ない目に遇わせたくないため。でしょ?私たちはとうの昔に覚悟を決めてるわ」 光希さんは目元のあたりとかお母さんによく似てる。いつ挨拶をしようか、タイミングを見計らっていたら、 「はじめまして、光希の母の茉友《まゆ》です。県内の中学校で支援学級の担任を長いことしていて、定年退職したあと再任用されて、市内の中学校に勤務してるの。ちなみに主人は市役所職員で私より先に定年退職になって、いまは小学生で用務員をしているのよ。あなた、黙っていないで光希がいつも世話になっている卯月さんの奥さんに挨拶くらいしてください」 「うん、そのうちな」 恥ずかしいのか帽子を目深に被ってしまった。 「ごめんなさいね」 「いえ、大丈夫です。僕も人見知りなので。あ、そうだ。卯月未知です。主人がいつもお世話になっています」 「お世話をされているのは私たちのほうよ。ヤスさんにも面倒をみてもらって感謝しているわ」 光希さんのご両親は、人柄の良さが滲みている、そんな素敵なご夫婦だった。

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