3444 / 3632

番外編光希さんの妹さん

「あんた、確か……」 柚原さんの顔を一目見るなり男の表情ががらりと変わった。 「なんだ俺を知ってるのか」 「うるせー」 プイッとそっぽを向く男。 「ここで騒ぎを起こせばサツがすぐに駆け付ける。今、サツに来たら非常にまずいんじゃないのか?」 男は何も答えなかった。 「あんた新入りにどんな教育をしているんだ?いつもあぁやって、同じ手口でいちゃもんつけて金を巻き上げているのか?」 ふんっと、嫌そうな音を鼻ふから出す男。 「しらばっくれるな。下手な芝居打ちやがって」 「そのくらいにしておけ。怒るだけ無駄だ」 柚原さんがいきりたつコウジさんを止めた。 「うちのカシラがじきじきにお前さんの新入りたちにヤクザのイロハを手ほどきをしている頃じゃないか?めったにないことだ。ありがたく思え」 「やかましい!」 男がベビーカーを蹴飛ばし、下りのエスカレーターへと向かった。 「そっちじゃねぇぞ」 柚原さんが上を指差した。男は覚えておけよ!と言い捨てると唾を吐いて、上りのエスカレーターへ乗り換えた。 心配そうにことのなりゆきを見守っていた光希さんの両親。 「なにも子どもたちの前で怒らなくてもいいのにな。あぁ~~もう。見てられない。奥さんは悪くないのに、叩くことないだろうが」 いてもたってもいられず、椅子から立ち上がろうとした敏さんを、 「父さん、その必要はない」 光希さんが止めた。

ともだちにシェアしよう!