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番外編盆踊り大会

「久弥さんがいなくなったら寂しくなるね」 陽葵をあやしながら話し掛けていたら、 「久弥はあんちゃんの側を離れたくないんだと。森下もそれを分かっているから、足を洗い、一緒にここで暮らすみたいだ」 寝耳に水だったから驚いた。 「遥琉さんと鷲崎さんはそのことを知っているんですか?」 そう簡単には足を洗うことが出来ないと彼から聞いたことがある。たとえ足を洗えたとしてもその後の生活がいかに大変かも。 「バーバさんのことだからこのことは知っているはすだ。バーバさんのことだ。二人の意思を尊重すると思う」 斉木先生が陽葵の顔を覗き込んだ。 「陽葵ちゃんはお姉ちゃんのややこのときにそっくりだな」 自分の手をじっと見つめ、機嫌よくあ~、う~と可愛らしい声を出す陽葵に、なじょした?と答えてあげる斉木先生。 「橘さんから聞いたあの親子、阿部さんに相談出来たべかな。何か起きてからでは遅いんだ。今の若い人には無駄に関わらない、干渉しないほうがいいのは分かっているんだが、気は病むし、なかなか難しいな」 斉木先生が複雑な心境を吐露してくれた。 その頃幼稚園では……。 突然降りだした雨に盆踊り大会は一旦中断。子どもたちも保護者も建物のなかに避難していた。 雨足が激しさを増し、ゴロゴロと雷が鳴りはじめた。 「久弥と譲治を先に帰らせて正解だったな」 「そうですね」 彼と橘さんが稲光が走る空を見上げながらそんな会話を交わしていた。

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