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番外編 はなももの里

「しおのことだがなかなか面白いことになりそうだぞ」 「といいますと?」 「コウジ、どこに行くんだ?逃げんじゃねぇぞ」 度会さんの鋭い声に広間から出ていこうとしたコウジさんがギクッとして立ち止まった。 「何でこんな大事なことを黙っていたんだ?」 度会さんが彼に色褪せた写真を渡した。三歳くらいの小さな男の子が二人。花もも号と書かれた電車の前で手を繋いで笑顔で写っていた。片方の男の子の目を見た瞬間彼の表情がガラリと変わった。 「さすがは卯月だ。気付いたか」 「コウジを狙っていたのは確か。でもしおの目的は他にあった」 「そういうことだ。コウジ、分かりやすく説明をしてもらおうか?」 「花もも号か、いやぁ~~懐かしいな」 「度会さん、ご存知なんですか?」 「あぁ。かれこれ二十年以上前になるかな。花桃の開花時期に合わせて福島駅から飯坂温泉駅の間を走っていた観光列車だ。二、三回は乗ったかもな」 「綺麗な夜の蝶のみなさんとですか?」 冗談交じりに彼が言うと、 「な訳あるか。紫に決まっているだろう」 笑いながら答えた。 「あらそれは変ですね。休みがちょうどしなくて、夫婦水入らず。一緒に旅行なんてめったに行けませんでしたからね。寿さんとは飯坂温泉なんて一度も行ったことはありませんよ。岳温泉は数えきれないくらいありますけど」 紫さんが広間に入ってきたものだから度会さんの顔から笑顔が消えた。額からは汗が吹き出した。

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