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番外編 はなももの里
「病棟の看護師がお前を探していたぞ。そろそろ病室に戻ったほうがいいんじゃないか」
彼が顔を出した。
手塚さんの表情がたちまち曇った。
「血を見るのが苦手。注射は痛いから嫌い。採血はもっと嫌い。よくそれでヤクザをやっていられたな」
「喧嘩は好きですけどね。俺だって事務仕事に今すぐに戻りたいですよ。でもオヤジ代行のカシラの命令は絶対ですから不本意ながら従うしかない」
手塚さんがため息をついた。
「コイツ、サツに突き出すんですか?」
「突き出したとしても何も話さない。それに誰かを傷付けた訳じゃないからな。手塚に預ける。それが一番いいんじゃないか」
「オヤジ、一番良くないですよ。手塚だけは……アイツだけは……」
佐治さんが血相を変えた。
「死んだような目をしていたな、コイツも。おそらく銃をはじめて持たされたんだろう。暴発の恐れがある改造銃だとはこれっぽっも知らないで。銃を手から離さないようにガムテープをぐるぐると巻かれて……可哀想な男だ。失禁しているじゃねぇか。青空、ミツオ、使って悪いがバスタオルと着替えをすぐに用意してやってくれ」
彼がしゃがみこんでガムテープを慎重に外しはじめた。
「さっき暴発するって……ちょっと待ってくださいよ」
慌てたのはしおさんだった。
「黙れ!」
佐治さんに脅されすぐに大人しくなった。
「もう二度とサツの世話になんかなりたくないだろ?ションベン刑を食らいマズい飯を食いたくないだろ?」
しおさんは反論すら出来なかった。
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