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番外編 はなももの里

「類は類を呼ぶとよく言うが、さっそく嗅ぎ付けてきたか」 グレーの帽子を被りデニム生地のつなぎを着た覃さんが脚立を肩に担ぎ颯爽と姿を現した。 「なかなか似合っているだろ?」 「誰も死神のメンバーだとは思わないよ」 「昔々に取得した電気工事士がまさか役に立つとはな。昔とった杵柄とか何とか言うんだろ?」 「資格は一生もんだ。食いっぱぐれることはないからな」 ちらちらと興味深そうにしおさんと若い男性を交互に見る覃さん。 「覃さん、待ってください。しおはだめだ」 過足さんが慌ててしおさんの前に立った。 「じゃあそっちが手塚が言っていた男か。手塚が退院する明後日まで面倒をみる人が必要なんだろ?根岸と伊澤は桃狩りに出掛けているし。適任者は俺しかないだろ?案ずるな、狂犬の躾くらい心得ている」 小さく握りこぶしを作ると任せろと言わんばかりに胸をドンと叩いた。 「譲治のことを泣かせるような真似をしたら許さねぇぞ」 「分かっている」 覃がいるということはどこかに宋も潜んでいるはず。彼があたりをキョロキョロと見回した。 「宋は真面目に仕事中だ。今度の仕事はイケオジパラダイスだとか言ってたな」 「なんだそれ」 「俺も聞きたい」 若い男性の眉がぴくっと動いた。 「度胸だけはたいしたもんだ。卯月にガムテープをはずしてもらえるなんて。羨ましい。妬ましい。焼きもちを妬く」 「そこは妬かんでいい」 なんともとんちんかんな二人のやり取りに、寝たフリを決め込んでいた若い男性が堪えきれずにぷぷっと吹き出した。 「あ……」 見上げるほどに大きい男が自分をジロリと見下ろしているんだもの。声も出せないくらいに驚いていた。

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