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番外編 はなももの里

「椎根金融だけには関わるな。コウジ兄貴に言われなかったか?」 「何年も前のことだろ?いちいち覚えていない」 「いいかしお、耳の穴かっぽじってよく聞きっせ」 「俺らは邪魔みたいだな。過足、あとは頼んだ。若いのを一人置いていくから何かあれば声を掛けてくれ」 「卯月さん何から何までありがとうございます」 「おればなにも頼んでいない。何で死なせてくれたかったんだよ」 ここぞとばかりに恨み辛みを口にするしおさんに、 「いいからおめさんは黙ってんせ」 過足さんの堪忍袋の緒が切れた。べしっと平手でしおさんの頬を叩いた。 「ほら」 彼が手を差し出した。 「場所を変える。着替えもしたいだろう。そういえば名前をまだ聞いていなかったな?」 プイッとそっぽを向く男性。 「そうか、分かった。名無しの権兵衛か」 「なんだそれ」 「今どきの若者は知らないのか。そうか、なるほどな。それにしても口の聞き方といい態度といい目上の者に対する礼儀が全くなっていない。覃にビシバシ躾をしてもらえ。そのほうが君のためにもなるだろう」 彼は怒りを通り越して呆れ返っていた。刺客を寄越すならもうちょい骨のあるまともなのを寄越せや。そんなことをぼやいていた。 彼が病院から出ると、身障者専用駐車スペース二台分の真ん中に前向きで駐車していた黒いセダンの後部座席のドアが開いて、煙草を吸いながらひげ面の男が下りてきた。後ろに護衛の男がぴたりとついてきた。

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