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番外編 はなももの里

「これはこれはかの有名な菱沼組の組長さんではないですか。お噂はかねがね伺っております」 嗄れた声で低く笑った。底知れぬ不気味さを醸し出す男に動じる彼ではない。 「いやいやそれほどでもないですよ」 佐治さんと青空さんが彼を守るために一歩前に出た。 「うちの若いのが迷惑を掛けたみたいですみませんね」 「迷惑だなんてそんな。失礼ですがどちら様ですか?」 相手を刺激しないようにあえて下手に出る彼。それをいいことに、 「貴様らみたいな下衆に名乗る名前はない」 ハハハと馬鹿にするように笑い出すひげ面の男。 人を見下すその態度に湯山さんの配下であることは間違いなかった。 「命が惜しかったら大人しくしているんだな」 ミツオさんが男性の首根っこを掴み自分のほうにグイッと引き寄せた。 「……ジロウって呼ばれていた」 若い男性がボソリと漏らした。 「そうか、ジロウさんか」 「気安く人の名前を呼ぶな」 よほど虫の居所か悪いのか、ひげ面の男が煙草を下に捨てると黒い革靴で踏み潰した。 「おい若造!馬鹿なことを抜かすな!」 怒鳴られしゅんとする若い男性。 「聞き間違いではないんだろ?」 「タンサンという名前のおっちゃんと喋っていたから間違いない」 「余計なことを喋るな!」 ジロウという男が額に青筋を張らせ、癇癪のまなじりを吊り上げて唇をひん曲げた。

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