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番外編 はなももの里

「怖いもの知らずで度胸だけはいいいまどきの若者だ。覃も宋も口ではめんどくさいと言いながらも面倒見はいい。任せよう」 「その若者は身元が分かるようなものは何も持っていなかったんですか?」 「携帯以外は車に置いていくように言われたそうだ」 「卯月さん、その若者の携帯を借りることは可能ですか?」 吉村さんが身を乗り出した。 「覃に頼んでみる」 吉村さんは元サイバー刑事。ネット犯罪のスペシャリストだ。困ったことがあれば助けてくれる。心強い味方だ。 「じゃあ吉村は名無しの権兵衛のほうを頼むな。俺は明日しおに会ってくる。はじめは警戒して無視されると思うが、社会で生きていくためにはまず戸籍が必要だ。今のままでは行政の支援も受けられないし病院に通うにも金銭的な負担が大きすぎる。そのことを根気よく説明すれば彼だって分かってくれると思う。二人の借金については阿部さんに頼みます。阿部さんの知り合いに椎根金融の被害者救済にあたっている弁護士がいるので」 「そうか、阿部法律事務所が全面的に協力しているなら鬼に金棒だ」 すぐに覃さんに連絡を入れる彼。返信されてきたメールの内容が面白かったみたいでくすっと笑っていた。 「笑ったりして悪いな。覃の日本語が相変わらずおかしくてな」

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