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番外編 はなももの里
「休みなのに随分と仕事熱心なんだな。斉藤、吉村少しで悪いが土産だ」
根岸さんが桃の箱を二人に差し出した。
頂いて本当にいいんですか?
「あぁ。二人ともガリガリに固い桃が好きなんだろ?遠慮するな」
「桃が大好きなんです。だからすごく嬉しいです」
「俺もです」
苦難しかないこれから先の事を考えて、暗い表情を浮かべていた二人。ぱぁ~~っと一気に表情が明るくなった。
「寺嶋農園のチラシだ。夫婦二人三脚でずっと桃を作ってきたが、高齢を理由に今年いっぱいで止めるそうだ」
「後継者は?いないんですか?」
「息子と娘が一人ずついたらしいが、もう大分前に二人とも亡くなったらしい。桃も梨と一緒で剪定や草刈りや消毒など年中仕事がある重労働だ。なかなか後を継いでくれる人がいないみたいだ」
「そうなんですね」
根岸さんから渡された寺嶋農園の寺嶋さんご夫婦が笑顔で映るチラシと、一枚の色褪せた古い写真をじっと見つめる斉藤さんと吉村さん。
「あれ?」
最初に気付いたのは斉藤さんだった。吉村さんもそのことに気付きはっと息を飲んだ。
「なぁ?見れば見るほど母親にそっくりだろ?寺嶋さんご夫婦もたまげていた」
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