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番外編 おかえり

柚原さんとの喧嘩の原因は些細なことだった。東京に行くか、行かないかで揉めたみたいだった。 たとえ本部の幹部であっても橘さんを他の男性たちに会わせたくない柚原さん。橘さんはお姉ちゃんの兄としての立場もあるからそういう訳にはいかない。 「二人とも素直じゃねぇよな。どっちかが歩み寄るしかねぇんだぞ」 「そうですね。それが出来れば喧嘩もしませんし、苦労もしませんよ」 つんけんとした答えが返ってきた。 「千夏さんに面会出来ることになったと睦さんから連絡が来ました」 「喜ばしいことじゃねぇか」 「今までの経緯を思い出して下さい。あれほど塩対応で息子はいないと頑なに否定していたのに手のひらを返すように息子に会いたいなんて。何か裏があるとしか思えません」 「だからか、睦の代理人として代わりに千夏に会うことになったのか」 「まだ会うとは決めていません。弁護士の知り合いは私しかいませんからね。頼られて嬉しいんですけど生憎私は……」 「未知専属だもんな」 「えぇ、そうです。でもお二人にはいろいろとお世話になりましたし、茨木さんからも頼まれてしまいましたからね。断るにも断れてなくなってしまって。この状況ですから東京に行ってる場合じゃないのは重々承知しています」 「一目見てきたらどうだ?同じチャイニーズマフィアの大陸連れ去り事件の被害者である青空にはなんの生活の保障もしない癖に。ほったらかしの癖に。どういう訳か千夏と小夏にはなぜか国をあげてのVIP待遇だ。嫌味のひとつくらい言ってこい。俺が許す」 「私の思っていることはすべてお見通しなんですね」 橘さんが口角をわずかにあげてふふっと笑った。    

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