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番外編 おかえり
「親父、舌が回ってねぇぞ。節酒していたんだろ?
度会さんに会えて嬉しいのは分かるが飲み過ぎだ。ハチ、青空、使って悪いが親父を広間に連れていってくれないか?」
廊下の隅に控えていた二人に声を掛けるとすぐに飛んできた。
「オヤジと同じで根岸さんと伊澤さんがいなくなると寂しいです」
三人とすれ違いざま姿を見せたのは鞠家さんだった。
「上総さん酔っ払っているのに風呂に入っているから心配だからと茨木さんから様子を見てきてくれと頼まれたんです」
「あの人に何を言っても無駄だ。プライドが高いから聞く耳さえ持たない」
彼がやれやれとため息をついた。
「いい加減親離れしないと駄目だろう。根岸には根岸の人生がある。これからは俺のためじゃなく伊澤と奏音のために生きてほしいんだ」
「それを聞いたら根岸さん泣いて喜ぶます」
「そうだったら嬉しいな」
彼の口元がゆるんだ。
翌朝。橘さんと一緒にご飯の用意をしていた。
「あの橘さん、変なことを聞いてすみません。遥琉さん、お義父さんとうまくいっていないんですか?」
橘さんの表情が少しだけ変わった。
「えっとあの、昨夜遥琉さんのあとを追いかけていって、たまたま偶然鞠家さんと話しをしていたのを耳にして……」
「さぁ~どうでしょうね。上総さんは子どもが嫌いでしたからね。遥琉の面倒を一切見ず根岸さんに丸投げして、びた一文生活費を渡さず女性と遊び呆けていましたからね。根岸さんは仕事を掛け持ちして苦労して遥琉を育てたんです。ヤクザとしては下っ端のほうでしたので小遣い程度しかもらっていなかったので生活はかなり苦しかったと話していましたよ」
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